不思議缶ネットワークの子どもたち
美馬のゆり
ジャストシステム
定価 2000円+税
ISBN 4-88309-432-4
1997 刊行
松本 功 評
1998/4/15
美馬さんは若き認知科学者である。認知科学とは、人間がどんな仕組みで世界や人どうしの関わりを認識しているか、ということを調べる学問である。あたりまえのことが、どうして可能なのかを知ろうとしている変わった学問だといえる。
美馬さんは、ある小学校で子どもたちが分からないこと、不明なことを壁に張り出して、大人たちから、その謎を解いてもらう不思議缶というものがあることを知る。彼女は、それをもっと専門的な知識を持っている人に答えてもらったらどうか、と考える。彼女自身、子供時代、父親の振る舞いから科学に興味を持った経験があって、子どもたちをうまく手伝うことができれば、子どもたちを、すくすくと育てられるのではないか、と思った(ような気がする。注 これは紹介者の解釈)。その子どもと大人のコミュニケーションを、パソコンの会議室を使ってやってみようと考えた。
しかし、なかなか、現実は簡単ではない。子どもたちの気持ちを、大人たちは簡単には理解できなかったのだ。「うさぎはなぜ飛ぶんだろう」という問いかけに、動物の足の仕組みで答える大学院生。子どもは、発見の喜びを分かち合いたかったのに・・・。高校3年生の時に、私立文系クラスに所属していた私(紹介者)には、理系の人間についての偏見がある。どうしてまあ、こんな解答を送るのだろう。そういうことがままあるのに正直言って驚いた。文系頭と理系頭ではまるで違うのか?
されはさておき、教える側の大学院生も自分の子どもの頃の疑問や気持ちを振り返り出す。子どもを教えるということではなく、共同の学びのネットワークが出来てくる。それは、簡単には出来ないものなのだった。しかし、そういった好奇心への気持ちのすりあわせが生まれていく・・・。最初に認知科学のことを変わった学問と述べたが、そんな人の好奇心の動きなんてことをこれまで一生懸命に考えようとした学問があっただろうか。ここに理系頭のかなわないところがある。人間の心なんて複雑でわからない、などと彼らは言わないのだ。可能なモデルを作り、作っては壊し、だんだんと仕組みのあるしっかりしたものを作っていく。と考えると文系頭も理系頭を見習わなければ、と思う。
この本は美馬さんにとっても出発の本だろう。こういうことを辛抱強く、楽しげに続けていく先に貴重な何かがでてきそうな気になる1冊である。
書評INDEXヘ