第3章 私の学校あるいは師匠

師匠達よ! 松本 功

私の今の生業は、出版業だが、この仕事を始める時に、いろいろ教えられた恩人の本が何冊かある。これらの本は、いわば、私の師匠なのだ。

『本屋風情』岡茂雄 平凡社文庫

『六時閉店』松村 久 マツノ書店 品切れ

『本屋風情』は、学術書を出していくときの、優れた研究者とのつきあい方、つきあいにくさ、人文書の草創期にどういうことがあったのか、渋沢敬三の力などを知ることができます。広辞苑の大本は、この岡さんの企画であったとか、南方熊楠の原稿を預かった人だとか、なかなか面白いことも知ることが出来ます。

『六時閉店』は、学術書をせこく、厳しく、時流とは関わり無く、地道に出していくことのしたたかさを教えてくれた座右の書です。鉛筆で線がたくさん引いてあります。もちろん、ここで実践されているせこさは、理想を実現させるためのものです。

もう1つは新刊をあげましょう。

『書店員の小出版社ノート』 小島清孝 木犀社

先達となる小さな様々な出版社の実践を小島さんの目で見て取材してかいた本です。なかでも最初に上げられている影書房の章は、感動的。こんな出版社をめざしたいものです。


私が最近手にした本で気に入っている、それこそ「バイブル」にしている本2冊について書いてみました。

『ボランティアもうひとつの情報社会』 金子郁容 発行:岩波新書

ISBN4-00-430235-8定価:663円

金子郁容といえば、私はとくにネットワーク論、情報論での印象が強く、そこ「ボランティア」ときて実際この本を読むまではネットワークや情報といった言葉との”繋がり”が見えてこなかった。

氏は本書の中で「情報とはまず自ら差し出さないと相手からも出てこない」と書いています。自分がして欲しいこと、欲しい情報のためにはまず、自らが動くこと。

すると一方で自分ならこんなことができる、これなら知っていると返ってくる。

〜やりとりを交わす過程の中ではじめて、情報に意味がつけられ、価値が発見され、新しい解釈−−ものの新たなる理解や、新しいやり方−−が生まれてくる。(本書より引用)〜そうした動的情報の循環プロセスがあってはじめて「情報」というものは活きてくる。そのプロセスがイコール、ネットワークというわけなのです。

私のイメージする情報というものに対する印象は、もっぱら蓄え続けるもの、抱え込んでしまうものとしての価値が強かったので、まったく方向としては正反対の捉え方をしていた本書の内容に大きな衝撃を受けました。

もうひとつ衝撃を受けたのは、ボランティアそのものについての考え方で、それはボランティアといえば無償の奉仕といったイメージが一般的な捉え方ではないかと思うのですが、氏はボランティアが行動するのはある種の「報酬」を求めているからだ、と書いていたことです。

「報酬」といえば私などはすぐ金銭的な、経済的なものを連想してしまうのですが(実際そうしたものもあるのでしょうが)、もっと広い意味での価値を〜その人それぞれにとって、自分が価値ありと思えるものを誰かから与えられることを期待して、行動するのである。(本書より引用)〜ということなのです。ポジティブな印象だったボランティアという言葉が、アクティブな、力を伴ったものへ受け取れるようになりました。

ボランティアは確かにアクティブ・ネットワーカーである。

『書店人のこころ』 福嶋聡 三一書房

ISBN4-380-97209-7定価:2,100円

現在、私はインターネット上で仮想の本屋さんを運営している。名前はCyberBookCenter(サイバー・ブック・センター)<URL>http://www.cyberbook.or.jp といって、株式会社ボイジャーの電子本フォーマット「エキスパンドブック」をもちいて制作された自費出版本を主に扱っている。

本書に出会ったのは、その運営をはじめて1年近くが経過した頃だった。昔から続いていた書店は、チェーン展開による店舗の大型化や、都心部へ有名書店が大型店舗を出店するなどで打撃を受けている。本好きのおやじが本屋を続けていくには辛い時代になっている。

当然、吹けば飛ぶよなサイバー・ブック・センターも然りで、まったく売れない本を前に悩んでいた時期だった。ましてやパソコンで読む本、電子の本、自費出版本を扱うなど無茶苦茶だ。

しかしこの本は、それまで完全に沈んでいた、本屋を続けていく気持ちがグラつき始めていた私のこころに”喝”与えてくれた。これほど心強く、本を読んで思ったことはなかった。

勇気を与えてくれたのは次のふたつ。

まず売れない本について、貴方は書店の中での位置、意味について考えたことがあるだろうか。たいていはすぐに返本すればいいじゃないか、そうすればもっと売れる本を置くペースが確保できて売り上げに結びつく、そう思うだろう。

でも、一度自分が気に入ったか何かで買い求めた本があって、足を運んだ書店にその本があったら、ちょっと嬉しくは思わないか?そうして、そうした本屋には自然と足が向くだろう。どこにでもあるような本でなければ尚更に。

〜ある本が、ほかの本を売る役目を果たせれば(つまりそういった「本好き」に足を向かせ、そのことでほかの本を買ってもらえれば)、その本はたとえ一年に一回も売れなくても、その書店に貢献しているのだ。(本書より引用)〜もうひとつは、〜「本を売る」という行為は、本の制作そのものにかかわっている、否「本を作る」という行為の最終段階そのものだ(本書より引用)〜ということ。

本を書くという行為は、読者に読んでもらってはじめて意味を持つものだから、その最終段階の「本を売る」という現場を受け持っている重大さを改めて認識させられたことです。

ああ、ほかにももっと紹介したいところがあるのですが、続きは本書で。

(古野信治)


 ↑ 書評メニューへ     ← 索 引 へ